思考実験:永久に配当しない会社の株価はいくらか?

前回の記事で理論に学ぼうと言った通り、今回は理論のお話。

 

理論株価とは、将来の配当(あるいは清算価値)を割引率で現在価値に置き直した数字の合計である、と前に書いた。

では、永久に配当しない会社の株価は、一体いくらになるだろうか?

 

配当を一切行わない会社は結構ある。収益を再投資し、今まで配当したことがないバークシャー・ハサウェイもその一つだ。

バークシャー・ハサウェイは、オマハの賢人、ウォーレン・バフェットが目の黒いうちは配当を行うことはないだろう。(あって欲しくないことだが)バフェットが亡くなれば?ひょっとしたら配当を行うようになるかもしれない。

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ここでは、観念上の産物として、筆頭株主の方針として、どのような外圧が掛かっても、永久に配当を行わない会社を考えてみたい。仮に名前をバークシャー・ゾンビ社としよう。

この会社の純資産は100億ドル、1年に生み出すフリーキャッシュフローは投下資本に関わらず10億ドル、永久成長率は0%、割引率は5%とする。

バークシャー・ゾンビ社の株式の51%は筆頭株主であるバフェット・ゾンビ(以下、バフェット)が保有している。バフェットは死ぬことがない。彼の信念は、「決して配当を行わない」「会社は永久に存続する」「決して持ち株を手放さない」というものである。

バフェットを除く、全ての市場参加者は合理的な買い手であると仮定する。

 

今、株式の残りの49%が市場に放出されたとする。この株式はいくらで取引されるだろう?

ターミナルバリューの公式に当てはめれば、理論時価総額=10/0.05=200億ドル。

49%株式の価格は200*49%=98億ドルとなろう。

したがって、98億ドルで取引されると考えるのは正しいだろうか?

 

これは間違いである:なぜなら、バークシャー・ゾンビ社は永遠に配当を行うことがないからである。この計算は、フリーキャッシュフローが全て配当されると想定した場合には正しい。しかし、バークシャー・ゾンビ社はフリーキャッシュフローを配当することなく、未来永劫にわたって、純資産に積み上げていくだけである。

 

49%株式の全てをあなたが購入したとしても、株主総会であなたの配当提案は否決されるだろう。バフェットは非合理的なことに、議決権を行使し一切の配当支払の決議を拒否する。

全ての市場参加者は合理的であるとの仮定により、全ての市場参加者は、この会社の株を買ったとしても、未来永劫にわたって一円の配当も得られないことを理解している。

他の市場参加者に非合理的な価格で転売する(キャピタル・ゲイン)ことができないのだから、市場での取引価格はインカムゲインに一致する。すなわち、将来の配当の現在価値である。

それはゼロである。

したがって、この会社の49%の株式の価値はゼロであることが示された。

 

いくつかの反論がありうる。

【反論1】持分法適用会社にすれば会計上の利益が得られるので、バークシャー・ゾンビ社を20%以上保有したい会社が存在する。

したがって49%の株式の市場価値はゼロではない。

 

全ての市場参加者は合理的であるから、会計上のみの利益に踊らされる市場参加者はいない。したがって、バークシャー・ゾンビ社を持分法適用することは無意味である。

 

【反論2】バフェットは「永久に配当しない」信念を持っているが、これは非合理である。会社の利益は株主のものであるから、筆頭株主であるバフェットは自身の利益になるように会社の配当ポリシーを決めるだろう。

資金を再投資に回すことで会社が得られる追加的なフリーキャッシュフローの割引現在価値が、配当を実施することで代わりに行う利得(例えば他の会社への投資や、娯楽など)を上回る場合に限って、彼は配当を行わないことを決議するべきである。そうしないのは非合理である。

非合理な前提から、株式価値がゼロという非合理な結論を導出することは論理的に無意味である。

1=2と前提すれば、いかなる数学的結論をも導出できることと同じである。

 

その通り。この思考実験は論理的に無意味である。

しかし、あなたは指摘を忘れているが、非合理な前提は他にもある。「全ての市場参加者は合理的である」がそれである。

 

 

さて、バフェットは彼の3つの信念、「決して配当を行わない」「会社は永久に存続する」「決して持ち株を手放さない」のうち、「決して持ち株を手放さない」を放棄したとする。そうすると、どのような変化が起こるだろうか?

49%株式は今まで無価値であったが、追加の1%(正確には1%+1株)は重要である。

なぜなら、議決権で筆頭株主のバフェットを上回れば、株主総会で配当を決議できるからだ。

株式の50%+1株を全てあなたが持つ必要はない。市場参加者はバフェットを除いてみな合理的なので、バフェット以外の株主全てが配当決議に賛成するからである。バフェットを除く全ての株主の議決権の合計が、バフェットを上回れば良い。

ここにおいて、最初の計算が意味を帯びる。バークシャー・ゾンビ社の50%+1株の株式の市場価格は200*50%=100億ドルとちょっとになるはずである。

市場に株式価値が取り戻されたのだ。

 

最後に、応用問題を出しておきたい。

【問題1】

配当を永久に行わないバークシャー・ゾンビ社の例を、PERが非常に高く、営業キャッシュフローが赤字である、ネットフリックスのようなグロース銘柄と比較せよ。

 

【問題2】

配当を永久に行わないバークシャー・ゾンビ社の例を、PERが10倍以下と低く、キャッシュリッチであるにも関わらず株主還元を行わないバリュー銘柄(日本の小型株にいくらでもある。だいたいオーナー企業)と比較せよ。

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