配当貴族政策は最善の資本政策か?

前回の投稿からしばらく間が空いてしまいました。

担当する仕事に変更があり、年度末ということもあって慌ただしくしていました。前は会計寄りの仕事だったので、マーケットの動向について話す機会がなく気分転換にこのブログを書いていましたが、今は外為や債券、株式市場の分析に少しながら仕事で関わってますので、趣味でわざわざやらなくてもよくなった、ということもブログ更新の間を空けてしまった理由にあるのかもしれません。

とはいえ新しい仕事で得た知見や疑問点がたくさんありますので、このブログを利用して考えていけたらと思います。気長にお付き合いください。

以下、本題です。

 

何十年以上にもわたって増配を継続している配当貴族銘柄は、みんな大好きだと思いますが(僕も好きですが)、その「配当貴族」方針にはデメリットもあるのではないか、ということについて下記で述べたいと思います。

まず、前提として、配当貴族銘柄はほとんど例外なく素晴らしい企業です。配当貴族の一つの定義として、25年以上連続増配という基準がありますが、コカ・コーラ、マクドナルド、ターゲット、シェブロン、AT&T等、錚々たるメンバーが並んでいますね(ターゲットは最近アレですが)。これは生存者バイアスによるものです。配当は基本的には累積利益から捻出されるので、それだけの期間にわたって増配を続けられるというのは、安定した収益力、長期的なビジョン、強固なバランスシートがなければ不可能です。

なので、僕は配当貴族銘柄がまずい企業であるとか投資するなと言うつもりは全くありません。そうではなくて、今後も永劫にわたって増配を続けるであろう、と投資家から期待されるような企業の資本政策が最善なのかどうか、と言うことについて議論したいのです。

あまりこのような観点での議論をネットで見たことがありません。投資家から見て増配は嬉しい、だから配当貴族銘柄は素晴らしいと言う投資家目線の議論はたくさんありますが、企業の資本政策の観点から考える記事は少ないようです。しかし、株主資本主義において企業の目的は株主価値の最大化であるのであれば、株主も企業がどのようにして株主価値を最大化できる政策を取りうるか、と言う視点で考えるべきですね。

ちょっと数字にして考えてみましょう。ある企業のEPS(一株あたり利益)の実績と見込を仮定して、三つの配当方針を作ってみました。

一つ目は配当貴族方針で、毎年10%の増配を行う資本政策。二つ目は配当性向一定で、EPSの50%を配当する資本政策。三つ目は投資に必要な資金を年0.5として、余剰資金を配当する資本政策です。

割引率を5%として、配当の現在価値を計算すると、三つ目がもっとも現在価値が高くなっていますね。

投資家からの期待により増配を義務付けられている企業は将来に増配できなくなることを恐れ、必要以上の資金を溜め込もうとするインセンティブがあります。これは最善の資本政策ではありません。理想的な条件では、現時点で必要でない資金は全て投資家に配当という形で返すべきです。そうすることで、投資家はその企業よりも良い投資機会を有している別な企業に投資を行うことができるからです。

しかし、以下の理由により、企業は現実的には、不要な資金を全て投資家に返すことは難しいでしょう。

・企業の投資機会は常に変動するので、企業は現時点で必要とする資金を完全に見積もることができない。

・企業が余剰資金以外を全て配当する政策をとった場合、残りの資金がなぜ必要か、どのような投資機会があるのかを投資家に説明することが求められるが、そのような情報開示は他の企業の意思決定に有利に働く。

その反面、配当貴族方針は、投資家と将来の配当額の合意が取れているので、企業にとっては、過度な情報開示の必要がなく、余剰資金を好きなタイミングで投資することができます。投資家にとっては、企業の資本効率改善に圧力をかけ、将来の配当収益見込みが立てられるので、エージェントコストを下げ、株式のボラティリティを低下させるメリットがあります。

したがって配当貴族政策は、理論的には最善の資本政策ではないが、現実的には悪くない資本政策、と言えるでしょう。少なくとも、資本コストを上回って投資する機会がないにも関わらず、配当性向をごく低いところで固定しており、それが株主還元だ、と思い込んでいる多くの日本企業の資本政策よりはずっとマシだと思います。

 

もう一つの論点として、増配方針が資本と負債の構成に与える影響があります。

エネルギー企業などのシクリカルな銘柄に多いですが、利益により配当をまかなうことができなくなった場合にも、借り入れを行うことによって増配を達成しようとします。

この資本のリバランス政策にはプラスとマイナスの両面があると思います。

つまり、企業が強固なバランスシートを持っている場合、借り入れにより配当を行うことは、不要な資本の返還であり資本コストを下げる効果がありますが、自己資本比率が閾値を下回ると、倒産リスクを高め資本コストを増加させます。

現在の米国株の環境では、配当や自己株取得の株主還元が過熱しており、かなりの部分がフリーキャッシュフローではなく、資本のリバランスにより為されています。しかし金利の上昇局面では有利子負債の増加は危険を伴い、現在の株主還元のペースは維持不可能になるでしょう。

 

まとめ

・配当貴族政策は最善の資本政策ではないが、現実的には他の政策よりも悪くはない

・資本政策というよりも過去安定的に成長してきた配当貴族企業のビジネスが良い(wide moat)

・資本のリバランスによって増配を達成している企業はないか?配当利回り、増配率だけではなく、バランスシート、フリーキャッシュフロー、総還元性向を見てみよう

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