増資は悪なのか?

簡単に「増資する」日本と、簡単に「増資しない」アメリカ。

テンセントの話は置いといて、今回は増資を考えます。テンセントの業績好調を今更褒め称えるよりも、ブログ村の間違ったトップ記事を訂正するほうが意味がある気がするので…

上に貼った記事では企業価値=時価総額であり、増資しても時価総額は変わらないとありますが、誤りです。

企業価値(EV)とは、時価総額+純有利子負債(有利子負債-現預金)の合計です。簡単に言えば、銀行から借りたお金を返したのちに、投資家が得るお金が、企業価値です。

企業が銀行から有利子負債100億円を借りても、企業価値は増えません。なぜなら、有利子負債と現預金が100億円ずつ増えるので、純有利子負債は変わらないからです。

一方で、企業が投資家から100億円を集め増資すると、企業価値は増加します。企業の純資産が100億円増えるので、投資家がもらえるお金の合計は増えるからです。

ただし、投資家が所有する株数も増えるので、株価が上がるとは限りません。

実を言うと、企業が増資資金を投資家に還元する場合には、増資は株価に中立的なのです。

簡単な例を挙げます。

純資産100億円、発行済み株式総数100万株の会社があるとします。

1)この会社が、ただちに全ての純資産を株主に分配するならば、株価は100億円/100万株=1万円となります。

2)この会社が、10億円の増資を行います。増資前の株価は1万円なので、10万株が新規に発行されます。増資後の純資産は110億円、株数は110万株となります。増資後の株価は110億円/110万株=1万円です。

以上の例で分かるように、増資は株価にインパクトを与えないのです。

しかし実際には、増資は株価にネガティブなインパクトを与えます。なぜでしょうか。

増資はWACCを上げてしまうから、という観点から説明ができるでしょう。

WACCとは加重平均資本コストを意味し、有利子負債の調達コストと資本コストを加重平均することで計算されます。一般に、有利子負債よりも資本のほうが、資金の出し手がリスクをより負っているため、企業からしてみればコストが高いです。

実際には企業は増資資金を還元するのではなく投資に回します。

増資後のEVAスプレッド(ROIC-WACC)が、増資しない場合のEVAスプレッドを上回っていれば、増資によって株価は上昇するはずです。

しかし、増資によってWACCが上がるで、増資後のEVAスプレッドが増資しない場合を上回るのは、非常に有望な投資先がない限り困難です。

 そのような投資先がある会社は、普通は投資できるだけの自己資金を持っているか、銀行から資金調達することができ、わざわざ増資する必要がありません。

増資によって株価が下落する要因の説明としては、ペッキングオーダー理論が学界では有力とされています。

ペッキングオーダー理論とは、企業の経営者は投資家に対して情報の非対称性があるので、今後の業績予測から現在の株価が割安か割高か判断でき、割高の局面でのみ増資を行う、というものです。

つまり、増資は現在の株価が割高であるシグナルというわけです。

株価が割高な時に増資を行うことは当然、投資家にとって好ましくないわけですが、では増資が好まれる、あるいは少なくとも投資家にとって悪ではない時とはどのような時でしょうか。

一つは、有望な投資機会があるものの、可能性が定かでないために、銀行から融資を受けることができないベンチャー企業が、リスクマネーを受け入れる場合です。

もう一つは、健全な事業を有する会社が、足元の急激な業績悪化により借り入れ契約の財務制限条項に引っかかり、自己資本比率を改善させなければ資金繰りに困窮し倒産するような場合です。この場合も倒産すれば既存の株主にはほとんど1円も入らないわけですから、増資の判断は少なくとも悪ではありません。

最初に引用した記事に戻れば、東芝の増資は後者に該当しますので、増資の判断自体は、間違っているとは僕は思いません。

より批判されるべきなのは、運転資金や、通常の設備投資に増資を行う企業でしょう。このような場合は、増資は既存の株主にとって不利益を生じます。

 

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