決算概観:ヴァリアント・ファーマシューティカルズ(VRX)

ヴァリアント・ファーマシューティカルズ(ティッカーシンボル:VRX)が16/4Q決算を発表しました。悪い決算でした。

16/4Qの売上24ドル、Non-GAAP EPS 1.26ドルは市場コンセンサスを上回りましたが、15/4Qの売上28億ドル、Non-GAAP EPS 1.55ドルに対して売上は13%減、EPSは19%減です。

セグメントでは、コンタクトや眼科用医療機器などを扱うボシュロムがヴァリアントの売上の約半分を占めており、売上は15/4Q比ほぼ横ばいと比較的好調でした。
一方で、薬価下落等の影響で、胃腸薬のSalixなどがあまりよくありません。

17年度のガイダンスはEBITDA 35.5億ドル〜37億ドルが提示され、市場コンセンサス38.8億ドルを下回っています。


2/28の株価は前日比14%下落しており、2015年8月の高値263ドルからは95%下落しています。
時価総額49億ドルはEBITDAのわずか1.3倍ですが、298億ドルの有利子負債を抱えており、EBITDAに対する有利子負債レバレッジは7倍近くに悪化していますので、割安な水準ではありません。
米国みずほ証券のアナリストIrena Kofflerは目標株価を9ドルとしています。

Market Hackの広瀬さんもVRXの決算について記事を書かれていますのでご参照ください。
http://markethack.net/archives/52037466.html

お詫び:サーバー代を払うのを忘れてて30分ぐらいサイトが見れなくなってました。すみません。広告でサーバー代を賄いたいです。

決算概観:シスコシステムズ(CSCO)

通信機器メーカーのシスコシステムズ(ティッカーシンボル:CSCO)が先週、17/2Qの決算発表を行いました。シスコは7月が期末の変則的な会計日程なので、17/2Qとは16年11月から17年1月の期間です。

決算はまずまずの内容でした。

17/2Qの売上は116億ドルと、16/2Qの119億ドルから3%低下しました。
GAAPベースでは、17/2QのEPSは$0.47と、16/2Qの$0.62から下落しました。
前期には法人税の還付などが入っており、これらの影響を除いたNon-GAAPベースでは、17/2QのEPSは$0.57と、16/2Qの$0.57から横ばいです。

17/2Qの市場コンセンサスは売上116億ドル、Non-GAAPのEPSは$0.56だったので、売上は予想通り、EPSは予想を上回りました。

 

売上の内訳を見ると、主力のネットワークスイッチが前年比5%減、ルータが10%減。また将来性がある分野のデータセンタ向けも、意外にも4%減です。

一方でサービス(内訳不明)が5%増となり、ネットワーク機器以外の成長戦略を模索しているように思われます。

サービスのグロスマージンは67.7%で、プロダクトのグロスマージン61.1%よりも良いです。したがってプロダクトとサービスを組み合わせたソリューションの拡大により、収益性の向上が期待できます。

17/2Qの配当は$0.29と、前四半期の$0.26から11%の増配となりました。(シスコは年一回の増配ペースです。15/2Qは$0.21でしたので、年間10%以上の増配を続けています)

17/3Qのガイダンスは売上がYoYでマイナス2%から横ばい、Non-GAAP EPSは$0.57-$0.59です。

株価は決算発表日2/15の32ドル台から3%程度上昇しており、ITバブル以来の高値圏で推移しています。

Appleの保有する余剰資金2000億ドルとレパトリ減税

トランプ政権の税制改正の目玉として、レパトリ(資金還流)減税法案があります。

レパトリ減税法案とは、米国企業が海外で保有している現金を米国に持ち帰る時にかかる税金を、1度限り通常の35%から10%〜15%程度に減税するという法案です。

 

この法案で最も影響を受ける企業の一つであるのがAppleティッカーシンボル:AAPL)です。Appleは2000億ドル(20兆円)もの莫大な現金及びすぐに換金可能な有価証券(Marketable Securities)を保有しており、その大半が海外で保有されています。

20兆円あれば世界中のほとんどの企業を買収できますが、下手な買収をしても資本効率を下げるだけです。Appleはこんなに大量の現金を持っていても仕方ないが、持ち帰ろうにも多額の税金を取られるので、仕方なく有価証券で運用しているのです。減税により米国に持ち帰られば、多くが株主還元に回るとの予測により話題となっているのです。

 

【警告】アップルの米国外資金は多分戻ってこないぞ! | Grow Rich Slowly シーゲル流米国株投資で億万長者になる!

ところで、上記リンクにて会計士の方がAppleが持つ1700億ドルのMarketable Securitiesはベンチャー企業投資有価証券であると述べておられますが、これは完全に間違いです。

 

Marketable Securitiesとはその名の通り、市場で取引される証券のことで、ソブリン債社債、上場の普通株式優先株等を指す幅広い言葉です。市場で取引されるため換金性が高く、現預金に性質が近いものとして扱われます。非上場のベンチャー企業の株式はそもそも、Marketable Securitiesではありません。

https://g.foolcdn.com/editorial/images/211463/marketable-securities-on-apples-balance-sheet_pUjo1AY_large.png

 

What Are Marketable Securities? — The Motley Fool

 

Motley FoolによるMarketable Securitiesの内訳です。社債が1160億ドルと大部分を占め、米国債が次点です。これらの債券は市場で活発に売買されているため、満期を迎える前に換金することができます。したがって満期までの期間により形式的に固定資産に分類されていますが、実質的には現預金同等物とみなしてよいものです。

 

また補足しておくと、米国会計基準(US-GAAP )においては、有価証券は決算において公正価値で測定し、簿価と公正価値の差額は損益に計上する(FVTPL)ように定められています。

日本会計基準(J-GAAP)では関連会社株式は基本的に時価評価しません。IFRSではその他包括利益を通して公正価値の変動を認識する(FVOCI)も認められていますが、時価主義の強いUS-GAAPではPLで認識する必要があります。

 

したがって、もし本当にAppleが1700億ドルのベンチャー企業の株を持っていたとしたら、(この金額はソフトバンクサウジアラビアと組んで1000億ドル規模のファンドを立ち上げる時に、世界のベンチャーキャピタルを全て合計した規模は数百億ドルと言っていたように、とてつもない規模なのですが)決算ごとに変動する公正価値がAppleの損益の大部分となるため、決算発表会はiPhoneの売上よりも(ソフトバンクのように)保有する会社の公正価値の話で持ちきりになるでしょう。シンプルを愛するジョブズが嫌うのは間違いありませんね。

 

さて、Appleが運用するMarketable Securities(社債米国債)の利回りは、平均するとAppleが発行する社債利回りと同じくらい(ざっくり3%台)でしょうか。

Appleの株主資本コストはざっくり計算して、リスクフリーレート2%にダウの平均成長率8%を足して10%くらいだと思います。D/E ratioが大体35:65なのでWACC(加重平均資本コスト)は7%ちょいでしょうか。

Marketable Securitiesの利回りがWACCより低いので、2000億ドルの資金を海外に積んでいる行為は株主価値を毀損していることになります。これがレパトリ減税税制改正によって改善される可能性があるので、株価が上がっているわけですね。

 

ただし、レパトリ減税はドル高を招きます。なぜなら、ドル以外の通貨で海外で保有しているのを、ドルに両替して米国に持ち帰るわけですから、実需でドルが高くなります。

ドル高はAppleにとって二つの意味で減益要因です。すなわち、海外での売上高がドルベースで目減りするという意味と、研究開発コストの大部分が本社のあるカリフォルニアで発生し、そのコストはドルで払われるため、コスト高に繋がるという意味です。

 

したがって、レパトリ減税Appleにとって、プラスの面とマイナスの面があります。

Appleはドル高に懸念を示しており、国境税調整に反対しています。

決算速報:Twitter(TWTR)

 Twitter Inc(ティッカーシンボル:TWTR)が16年度決算発表を行いました。

 

売上はYoYで13%増。4QのQoQではわずか1%増で、データ販売のライセンス契約による収入が増えているかわりに広告収入は横ばいで、厳しい状況です。月間アクティブユーザはYoYで+4%と停滞期に入っています。

4Qで1億ドルのリストラクチャリング・コストを計上しています。

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GAAP純利益は4.5億ドルの赤字で、Non-GAAP純利益は4.0億ドルの黒字です。

 

このGAAPとNon-GAAPの差は主にストックオプション費用です。

米国会計基準ではASC718にて付与日時点の公正価値でストックオプションを費用化するという決まりがあります。

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フリーキャッシュフローは16年度に4億ドル創出しましたが、ストックオプションを乱発しているせいで潜在株式が増加しており、将来の株主還元は期待できません。成長も停滞しておりかなり厳しいです。

 

普段Twitterを利用していますが、広告主から出される広告の質が低く、ターゲッティングの精度も GoogleFacebookと比較して圧倒的に悪いです。

GoogleFacebookは自社サイトにおいて最適化した動画広告を表示することでARPUを大幅に伸ばしていますが、Twitterにそのような改善を期待するのは間違っています。

 

17年度ガイダンスは、16年度と同じくストックオプション費用を除いた調整後営業利益では黒字ですが、純利益は赤字予想です。

 

株価は酷い決算により寄り付きから約4%下げています。

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決算速報:コカコーラ(KO)

コカコーラ(ティッカーシンボル:KO)が16/4Qの決算発表を行いました。

 

売上はQoQで6%減少、YoYで5%減少でした。ドル高の為替影響が大きいです。

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QoQの売上増減分析です。販売量が一番左ですが、ヨーロッパや北米で伸びています。南米ではプライスミックスによる増収とドル高によるマイナス影響が相殺しています。

 

コカコーラは4Qに主に中国でボトラーのリフランチャイズを行なっており、その影響で大きく売上を減らしています。この構造改革はコスト削減に繋がりネガティブなニュースではありません。

為替影響とリフランチャイズ影響を除いた オーガニック売上は各地域でQoQ増収です。

 

 

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QoQで比較した収益も同様に、構造改革による一時的な費用を除くと、為替の影響で減益です。

 

17年度のガイダンスは16年度のEPS 1.91$に対して1-4%減益が提示されました。

オーガニックでは3%の成長ですが、構造改革やドル高の影響を受け減益見込みです。

これは市場コンセンサスの1.97$よりも悪いです。

 

株価は寄り付き時点で約3%下げています。

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米アパレル業界の決算概観:アンダーアーマー、ヘインズブランズ、ラルフローレンetc

米アパレル業界の12月決算は市場コンセンサスを下回る低調な数字が相次ぎ、株価も著しく下落しています。決算発表により大きく下落した代表的な銘柄は下記の通りです。

 

Under Armour:29%安(上場来安値)

Hanesbrands:16%安(4年ぶり安値)

Deckers Outdoor:16%安(1年ぶり安値)

Ralph Lauren:12%安(7年ぶり安値)

 

また、高級ブランドのMichel Korsも今のところPre-Marketで7.7%安です。

 

各銘柄について簡単にコメントします。(本当は一つずつ細かく見て行きたいのですが、時間がないので…)

アンダーアーマー:株価下落の要因は成長減速と棚卸資産の増加。来期減益予想。PER(TTM)40倍はまだ非常に割高。6億ドルの発行済み社債はS&P格付けBB+のジャンク級に転落。

 

ヘインズブランズ:買収効果により増収増益だがオーガニックのインナーウェア事業は減収減益。来期予想も成長余力ほとんどなく厳しい。来期予想PER10倍を切っており、株主還元に積極的なことから成長余地がなくとも投資妙味あり。

 

デッカーズ・アウトドア:ホリデーシーズンに大幅値引きを行ったにも関わらず売上低調、前年4Q比75%減益。羊毛ブーツが主力のためホリデーシーズンの減益は大打撃。来期減収予想。

 

ラルフローレン:CEOが取締役会と対立し突然の辞任。来期二桁減益予想。ブランド魅力落ちておりマージン率減少。PER(TTM)32倍は割高。

 

アパレル業界全体の趨勢について考えます。

 

未だにアパレル業界の主戦場はBrick-and-Mortarと呼ばれる伝統的な実店舗であり、ホリデーシーズンにおけるアパレル業界の不調は小売業界の不調と相関しています。

各ブランドはオンライン販売に力を入れていますが、各ブランドごとに影響力のあるECサイトを作り上げるのは困難で、最も成長の果実を手にしているのはアマゾンのような強力な全方位型ECサイトや、スタートトゥデイのような総合ファッションECサイトです。

 

また、若者に広がる深刻なブランド離れもアパレル業界の低迷の理由の一つです。前にテレビで、ラコステのワニが書かれた服にワッペンを貼って隠すアメリカの若者が報道されていました。

名前は忘れましたが、GAPのようにロゴを胸にデカデカと書いた、アメリカのティーン向けブランドがこの前破綻していました。また無印良品ユニクロといった、主張することを拒否するようなブランドが世界的に人気です。伝統的なアパレルブランドが持っていたmoatが年々力を失っているように感じます。(例外はNIKEくらいでしょうか)

 

米下院が打ち出している国境税調整もアパレル業界や小売業界の懸念事項の一つです。(下院議長の名前からライアン・ルールと呼ばれています)

海外からの輸入品に対して20%の関税をかける国境税調整は、東南アジアの人件費が安い国で生産し、米国内の小売業者に販売する業態が一般的であるアパレル業界に、短期的に深刻な打撃を与えるはずです。アパレル株や小売株の下落にはこの政策的要因も関係しています。

 

以上のような理由により、現在のところ、アパレル業界の未来は極めて暗いです。ただし、市場の急速な歪みにより、中長期的な投資への魅力が生まれていることも事実です。

(個人的で無責任なレーティングを言えば、HanesbrandsはHold⇨Buyに変更、それ以外はSellです)

決算概観:JT、BP

12月四半期決算発表がピークですね。

保有株を簡潔に見て行きましょう。

 

JT日本たばこ産業):あまり良くない決算。16年度12月期累計は前年度比で減収減益。

為替一定ベース、のれん償却なしの調整後営業利益だと単価値上げのため二桁増益であることを強調しているが、あまり意味がない数字だと思います。

JTはロシアやイギリス、イタリアでシェアが高く、ルーブルやポンド、ユーロに対して円高に推移していることが当期減益の理由だと説明しています。

ルーブル金利がかなり高くインフレが進行しているので、単価値上げには通貨安の影響が相当程度含まれているはず。為替だけ一定と置くことに意味があるのかどうか。

のれん償却なしも、ナチュラルアメリカンスピリットの理解不能な買収がほとんど結果を出していない状況では、調整後の数字が実態を反映しているかどうか疑問です。

短信に出てくる「為替一定ベースの調整後営業利益の成長率における、中 長期に亘る年平均 mid to high single digit 成長」という、経済産業省筆頭株主JTのお役所的な奇妙な文章と、業績が結びついてきません。来期のガイダンスも減収減益。

今日の株価は1.6%下げ年初来安値更新。

 

BP(ティッカーシンボル:BP)

悪い決算。4Qの当期利益は4.9億ドルの黒字だが、市場コンセンサスを下回りました。

16年度通期のEPSは0.13ドル。前期配当の2.4ドルを遥かに下回り、BSは引き続き強固だが現在の配当利回り6.6%から減配やむなしか。

昨年の原油価格平均はバレルあたり44ドル。足元の価格は55ドル。

少し株価が原油価格の上昇に先行して上がりすぎた印象を受けます。BPは確認埋蔵量は多いのですが技術的に難しい深海の権益を持っており、他の石油メジャーよりも原油価格に対するボラティリティが大きいかもしれません。

ADRはPre-marketで3.1%下げ年初来安値を更新しています。

10年間持っていたアマゾン株を売りました

Amazonティッカーシンボル:AMZN)の4Q決算は良くなかったです。

4Q単独では、売上高は15/4Q比22%増の437億ドル、営業利益は15/4Q比13%増の$13億ドル。AWSビジネスの営業利益は15/4Q比60%増の9億ドル。

 

ひどかったのは翌Qのガイダンスです。

17/1Qのガイダンスは、売上高は16/1Q比14%〜23%増と低調な伸び。営業利益は16/1Qの11億ドルに対して予想2.5億ドル〜9億ドルと減益予想でした。

 

クラウドコンピューティングの競争激化によるAWSビジネスの成長減速や、Netflixと映像配信分野で戦うためにコンテンツ制作費が上昇していることがあるのでしょう。

Netflixは営業キャッシュフローのマイナスが膨らんでも会員数増加が評価されるステージなのに対して、Amazonは売上と営業利益の両方をコントロールしないと評価されないステージにあります。ところがここまで図体が大きくなると、もはや営業利益を投資家が期待するペースで伸ばすことは困難です。PER192倍は正当化することが困難な数字です。

エコーやAmazon Go、ドローンによる配達など、Amazonの先駆性はGoogleを凌駕するレベルですので、将来への期待が高いことはわかるのですが、自前のコンテンツを拡充することによってプライム会員を増やす戦略では、投資の回収ステージに至るまでにまだ遠い時間がかかります。

コンテンツの制作費が増えることは分かっていたので、この決算はある程度想定できたたのですが、新値を追っている最中だったのでもう少し見極めたいと思っていました。Amazonが成長の罠の状態に入っている確信ができたので、持ち株を売ることにしました。

 

なぜか10年前にAmazon株を10株だけ買っていました。買値は58ドルでした。

10年前の2007年は、AmazonKindleサービスを開始した年です。ビジネスモデルに将来性を感じて、何も考えずに買ったのだと思います。

金曜日に売却した単価が806ドルなので、およそ13倍になりました。

f:id:yudet:20170204030120p:plainチャートを見ると2000年から2009年頃まで株価が停滞していたことがわかります。

10年で13倍になったので、IRRは30%です。(1.3^10=13.7)

なぜたった10株じゃなくてもっと買わなかったのか・・・と、昔の自分を殴りたい気持ちです。

実はだいぶ前のことですが、金融リテラシー不足によって何も考えずに取引をした結果、デイトレードで損失を出した経験があるので、Amazon株の収益を入れてもトータルリターンはマイナスなのです。いまや僕もある程度の知識を身につけたので、もう昔のような過ちをせずに、堅実に資産を増やして行きたい、と強く思います。

思考実験:永久に配当しない会社の株価はいくらか?

前回の記事で理論に学ぼうと言った通り、今回は理論のお話。

 

理論株価とは、将来の配当(あるいは清算価値)を割引率で現在価値に置き直した数字の合計である、と前に書いた。

では、永久に配当しない会社の株価は、一体いくらになるだろうか?

 

配当を一切行わない会社は結構ある。収益を再投資し、今まで配当したことがないバークシャー・ハサウェイもその一つだ。

バークシャー・ハサウェイは、オマハの賢人、ウォーレン・バフェットが目の黒いうちは配当を行うことはないだろう。(あって欲しくないことだが)バフェットが亡くなれば?ひょっとしたら配当を行うようになるかもしれない。

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ここでは、観念上の産物として、筆頭株主の方針として、どのような外圧が掛かっても、永久に配当を行わない会社を考えてみたい。仮に名前をバークシャー・ゾンビ社としよう。

この会社の純資産は100億ドル、1年に生み出すフリーキャッシュフローは投下資本に関わらず10億ドル、永久成長率は0%、割引率は5%とする。

バークシャー・ゾンビ社の株式の51%は筆頭株主であるバフェット・ゾンビ(以下、バフェット)が保有している。バフェットは死ぬことがない。彼の信念は、「決して配当を行わない」「会社は永久に存続する」「決して持ち株を手放さない」というものである。

バフェットを除く、全ての市場参加者は合理的な買い手であると仮定する。

 

今、株式の残りの49%が市場に放出されたとする。この株式はいくらで取引されるだろう?

ターミナルバリューの公式に当てはめれば、理論時価総額=10/0.05=200億ドル。

49%株式の価格は200*49%=98億ドルとなろう。

したがって、98億ドルで取引されると考えるのは正しいだろうか?

 

これは間違いである:なぜなら、バークシャー・ゾンビ社は永遠に配当を行うことがないからである。この計算は、フリーキャッシュフローが全て配当されると想定した場合には正しい。しかし、バークシャー・ゾンビ社はフリーキャッシュフローを配当することなく、未来永劫にわたって、純資産に積み上げていくだけである。

 

49%株式の全てをあなたが購入したとしても、株主総会であなたの配当提案は否決されるだろう。バフェットは非合理的なことに、議決権を行使し一切の配当支払の決議を拒否する。

全ての市場参加者は合理的であるとの仮定により、全ての市場参加者は、この会社の株を買ったとしても、未来永劫にわたって一円の配当も得られないことを理解している。

他の市場参加者に非合理的な価格で転売する(キャピタル・ゲイン)ことができないのだから、市場での取引価格はインカムゲインに一致する。すなわち、将来の配当の現在価値である。

それはゼロである。

したがって、この会社の49%の株式の価値はゼロであることが示された。

 

いくつかの反論がありうる。

【反論1】持分法適用会社にすれば会計上の利益が得られるので、バークシャー・ゾンビ社を20%以上保有したい会社が存在する。

したがって49%の株式の市場価値はゼロではない。

 

全ての市場参加者は合理的であるから、会計上のみの利益に踊らされる市場参加者はいない。したがって、バークシャー・ゾンビ社を持分法適用することは無意味である。

 

【反論2】バフェットは「永久に配当しない」信念を持っているが、これは非合理である。会社の利益は株主のものであるから、筆頭株主であるバフェットは自身の利益になるように会社の配当ポリシーを決めるだろう。

資金を再投資に回すことで会社が得られる追加的なフリーキャッシュフローの割引現在価値が、配当を実施することで代わりに行う利得(例えば他の会社への投資や、娯楽など)を上回る場合に限って、彼は配当を行わないことを決議するべきである。そうしないのは非合理である。

非合理な前提から、株式価値がゼロという非合理な結論を導出することは論理的に無意味である。

1=2と前提すれば、いかなる数学的結論をも導出できることと同じである。

 

その通り。この思考実験は論理的に無意味である。

しかし、あなたは指摘を忘れているが、非合理な前提は他にもある。「全ての市場参加者は合理的である」がそれである。

 

 

さて、バフェットは彼の3つの信念、「決して配当を行わない」「会社は永久に存続する」「決して持ち株を手放さない」のうち、「決して持ち株を手放さない」を放棄したとする。そうすると、どのような変化が起こるだろうか?

49%株式は今まで無価値であったが、追加の1%(正確には1%+1株)は重要である。

なぜなら、議決権で筆頭株主のバフェットを上回れば、株主総会で配当を決議できるからだ。

株式の50%+1株を全てあなたが持つ必要はない。市場参加者はバフェットを除いてみな合理的なので、バフェット以外の株主全てが配当決議に賛成するからである。バフェットを除く全ての株主の議決権の合計が、バフェットを上回れば良い。

ここにおいて、最初の計算が意味を帯びる。バークシャー・ゾンビ社の50%+1株の株式の市場価格は200*50%=100億ドルとちょっとになるはずである。

市場に株式価値が取り戻されたのだ。

 

最後に、応用問題を出しておきたい。

【問題1】

配当を永久に行わないバークシャー・ゾンビ社の例を、PERが非常に高く、営業キャッシュフローが赤字である、ネットフリックスのようなグロース銘柄と比較せよ。

 

【問題2】

配当を永久に行わないバークシャー・ゾンビ社の例を、PERが10倍以下と低く、キャッシュリッチであるにも関わらず株主還元を行わないバリュー銘柄(日本の小型株にいくらでもある。だいたいオーナー企業)と比較せよ。

恐怖指数が10年来の低水準

S&P500の恐怖指数(VIX)が先週、10.39と10年来の低水準をつけました。

今は少し戻して11.39です。注:書いている間に12.62まで上がりました。いいぞ!

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恐怖指数とは市場のボラティリティを表した指数で、高いほど市場が乱高下すると思われていることを示します。具体的には取引されているオプション価格のプレミアムを元に計算されるようです。

一般に投資家は株価が下げている時にパニック売りを起こすためチャートは暴落しやすく、逆に株価の上昇局面では慎重に買い進めるためチャートはじわじわと上がります。

 

したがって恐怖指数が低水準というのは高値安定している局面と言えます。

実際、過去に恐怖指数が10ポイント台をつけた2007年1月や2014年7月は株価が上昇基調にありました。

 

では恐怖指数は低い方が良いのかというと、僕はそう思いません。ボラティリティが低い状態は投資家が慢心している状態です。アンカリング効果により少しの値下げで押し目買いを入れてしまいがちです。しかしトランプ政権の不透明な政策や金利上昇の観測を考えると、近い将来にボラティリティが高まる確度はかなり高いと思います。

足元の小康状態に慣れてしまうのは危険です。このような時こそ目先の値動きにとらわれず、理論に学ぶべきだと思います。