配当貴族政策は最善の資本政策か?

前回の投稿からしばらく間が空いてしまいました。

担当する仕事に変更があり、年度末ということもあって慌ただしくしていました。前は会計寄りの仕事だったので、マーケットの動向について話す機会がなく気分転換にこのブログを書いていましたが、今は外為や債券、株式市場の分析に少しながら仕事で関わってますので、趣味でわざわざやらなくてもよくなった、ということもブログ更新の間を空けてしまった理由にあるのかもしれません。

とはいえ新しい仕事で得た知見や疑問点がたくさんありますので、このブログを利用して考えていけたらと思います。気長にお付き合いください。

以下、本題です。

 

何十年以上にもわたって増配を継続している配当貴族銘柄は、みんな大好きだと思いますが(僕も好きですが)、その「配当貴族」方針にはデメリットもあるのではないか、ということについて下記で述べたいと思います。

まず、前提として、配当貴族銘柄はほとんど例外なく素晴らしい企業です。配当貴族の一つの定義として、25年以上連続増配という基準がありますが、コカ・コーラ、マクドナルド、ターゲット、シェブロン、AT&T等、錚々たるメンバーが並んでいますね(ターゲットは最近アレですが)。これは生存者バイアスによるものです。配当は基本的には累積利益から捻出されるので、それだけの期間にわたって増配を続けられるというのは、安定した収益力、長期的なビジョン、強固なバランスシートがなければ不可能です。

なので、僕は配当貴族銘柄がまずい企業であるとか投資するなと言うつもりは全くありません。そうではなくて、今後も永劫にわたって増配を続けるであろう、と投資家から期待されるような企業の資本政策が最善なのかどうか、と言うことについて議論したいのです。

あまりこのような観点での議論をネットで見たことがありません。投資家から見て増配は嬉しい、だから配当貴族銘柄は素晴らしいと言う投資家目線の議論はたくさんありますが、企業の資本政策の観点から考える記事は少ないようです。しかし、株主資本主義において企業の目的は株主価値の最大化であるのであれば、株主も企業がどのようにして株主価値を最大化できる政策を取りうるか、と言う視点で考えるべきですね。

ちょっと数字にして考えてみましょう。ある企業のEPS(一株あたり利益)の実績と見込を仮定して、三つの配当方針を作ってみました。

一つ目は配当貴族方針で、毎年10%の増配を行う資本政策。二つ目は配当性向一定で、EPSの50%を配当する資本政策。三つ目は投資に必要な資金を年0.5として、余剰資金を配当する資本政策です。

割引率を5%として、配当の現在価値を計算すると、三つ目がもっとも現在価値が高くなっていますね。

投資家からの期待により増配を義務付けられている企業は将来に増配できなくなることを恐れ、必要以上の資金を溜め込もうとするインセンティブがあります。これは最善の資本政策ではありません。理想的な条件では、現時点で必要でない資金は全て投資家に配当という形で返すべきです。そうすることで、投資家はその企業よりも良い投資機会を有している別な企業に投資を行うことができるからです。

しかし、以下の理由により、企業は現実的には、不要な資金を全て投資家に返すことは難しいでしょう。

・企業の投資機会は常に変動するので、企業は現時点で必要とする資金を完全に見積もることができない。

・企業が余剰資金以外を全て配当する政策をとった場合、残りの資金がなぜ必要か、どのような投資機会があるのかを投資家に説明することが求められるが、そのような情報開示は他の企業の意思決定に有利に働く。

その反面、配当貴族方針は、投資家と将来の配当額の合意が取れているので、企業にとっては、過度な情報開示の必要がなく、余剰資金を好きなタイミングで投資することができます。投資家にとっては、企業の資本効率改善に圧力をかけ、将来の配当収益見込みが立てられるので、エージェントコストを下げ、株式のボラティリティを低下させるメリットがあります。

したがって配当貴族政策は、理論的には最善の資本政策ではないが、現実的には悪くない資本政策、と言えるでしょう。少なくとも、資本コストを上回って投資する機会がないにも関わらず、配当性向をごく低いところで固定しており、それが株主還元だ、と思い込んでいる多くの日本企業の資本政策よりはずっとマシだと思います。

 

もう一つの論点として、増配方針が資本と負債の構成に与える影響があります。

エネルギー企業などのシクリカルな銘柄に多いですが、利益により配当をまかなうことができなくなった場合にも、借り入れを行うことによって増配を達成しようとします。

この資本のリバランス政策にはプラスとマイナスの両面があると思います。

つまり、企業が強固なバランスシートを持っている場合、借り入れにより配当を行うことは、不要な資本の返還であり資本コストを下げる効果がありますが、自己資本比率が閾値を下回ると、倒産リスクを高め資本コストを増加させます。

現在の米国株の環境では、配当や自己株取得の株主還元が過熱しており、かなりの部分がフリーキャッシュフローではなく、資本のリバランスにより為されています。しかし金利の上昇局面では有利子負債の増加は危険を伴い、現在の株主還元のペースは維持不可能になるでしょう。

 

まとめ

・配当貴族政策は最善の資本政策ではないが、現実的には他の政策よりも悪くはない

・資本政策というよりも過去安定的に成長してきた配当貴族企業のビジネスが良い(wide moat)

・資本のリバランスによって増配を達成している企業はないか?配当利回り、増配率だけではなく、バランスシート、フリーキャッシュフロー、総還元性向を見てみよう

シーゲル流投資はアノマリーの一つに過ぎない

米国株サイトにとってのバイブルの一つ、シーゲル教授の「緑本」こと、「株式投資」を少し前に読みました。

あちこちで褒められているので教条的なトンデモ本かと思っていましたが、理論的に書かれていて良い本でした。

当ブログも参加しているブログ村の米国株カテゴリで、「シーゲル流」と言われる投資方法が最近流行っていますね。僕の理解だと、「シーゲル流投資」とは、足元の配当利回りが良く増配履歴が長いディフェンシブなセクターの優良大型株を、中長期的に配当再投資し続ける戦略です。銘柄の例を挙げると、コカコーラ、マクドナルド、ファイザー、エクソンモービル、ウォルマート、IBM、フィリップ・モリス、アルトリア、ジョンソン・アンド・ジョンソン、AT&Tなどです。特に「シーゲル流」と名前がついていなくても、「ブログ村」においてディフェンシブな株が非常に好まれていることは明らかです。

この本ではそのような投資が奨励されているのかと想像していたのですが、この「緑本」で推奨されていたのは僕が思い込んでいたいわゆる「シーゲル流」とは少し違いました。

「緑本」では様々なアノマリー(市場の歪み)について分析されています。例えば1月は株価のパフォーマンスが良いとか、月曜日は株価が下がりやすいとかですね。

「緑本」の結論では、米国株に限らず先進国クラスや新興国クラスの分散された株式インデックスを長期的に保有することが推奨されています。例えばVT(バンガード・トータル・ワールド・ストックETF)を配当再投資してひたすら保有するような手法です。

ネットの書評を読むと、「緑本」の続編である「赤本」では(まだ僕は未読ですが)更なるリターンを狙う戦略として、エネルギーセクターやヘルスケアセクターの過去の利回りに着目して、これらセクターへの重点的な投資が推奨されているようですね。これがいわゆる「シーゲル流」の理論的根拠となっているようです。

最近、ブログ村の記事を読んでいて思うのは、シーゲル教授が言っていることは経験的なアノマリーであって、先験的な(どんな環境でも正しい、という意味で使っています)投資理論ではない、ということが理解されているのだろうか、という疑問です。

これまで、エクソンモービルへの配当再投資戦略が IBMへのそれをアウトパフォームしてきたのは、原油というオールド・ビジネスへの期待が、コンピュータという画期的なビジネスへの期待よりも低かったからです。したがってPERは低位に抑えられ、配当再投資が有効だったわけです。

フィリップ・モリスが全ての大型株の中で最高のパフォーマンスを出したのも、規制や市場縮小への懸念が PERを抑えてきたことが一因です。

翻って現状はどうでしょうか?フィリップ・モリスのPERは24.6倍、配当利回りは3.77%です。バリュエーションはグロース株に接近しつつあり、配当利回りは史上最も低い水準です。バリュエーションが割高になるとはどういうことでしょうか?理論株価とは、将来の配当の現在価値でした。したがって、もし現在の価格が適正だとしたら、フィリップ・モリスはIQOSの世界展開について今後の成長性が評価されているため、足元のバリュエーションが割高になっていると考えられるでしょう。電子タバコ市場の将来は非常に魅力的であり、フィリップ・モリスの収益見込みは明るいでしょう。しかしこれは原義的なシーゲル流投資ではありません。タバコセクターが変質しており、もはや期待されず低位に放置されるセクターではなくなっているからです。タバコセクターのアノマリーが消失しているのです。

タバコセクターに限った話ではありません。「緑本」では、過去100年にわたって見られたアノマリーが、最近では消滅しつつあるという例がいくつも出てきます。アノマリーは広く知られた時点でアノマリーではなくなるのです。

一方で、小型株効果は良く知られた現在でも存在するアノマリーの一つですが、「シーゲル流投資」を行っている人たちは、しばしばそのアノマリーを無視しているように見えます。

僕の意見はこうです。

①シーゲルの推奨する投資方法は経験的に優れている。

②将来的にアノマリーが存続するかどうか定かでない。

③バリュエーションを確認し、理論の本質に立ち戻ることでアノマリーの有効性を確認することができる。

④セクター名や米国株という括りだけに着目するのでは、シーゲル流投資は早晩、教条主義に転落するだろう。

 

クレジットカード業界の地殻変動は中国から起きる

クレジットカード決済の主力プレーヤーはビザとマスターカードで、アメックスがその後を追いかける図式になっています。
ビザとマスターカードのPERは30倍超と市場から更なる成長を期待されており、株価は怖いくらいに綺麗な右肩上がりで伸び続けています。

ビザやマスターカードを打倒する新星とかつて言われたスクエアは、ヘボなCEOジャック・ドーシーによって、彼がCEOを掛け持ちするtwitterと同じく株式価値を毀損し続けています(ウォルト・ディズニーは彼を取締役に招いて何をするのでしょうか?)
スクエアのビジネスモデルは破綻しています。

スクエアの決済手数料は3.75%でビザやマスターカード以上に高く、店舗はスクエアのカードリーダーの設備投資を行う必要があり、スクエアは受け取った手数料の大部分をクレジットカード会社に払うから大赤字、という三方一両損の誰も得しない構造なのです。

スクエアが転び、キャッシュレス社会が進行することは明白なので、今後もクレジットカード決済業界は安泰なのでしょうか?僕はそうは思いません。地殻変動は中国で起こっています。

中国のIT企業騰訊(テンセント)が展開するメッセージングアプリWechatは、Wechat paymentというアプリで決済を行うサービスを開始しています。Wechatのユーザ数はLINEの10倍の9億人で、うち2億人超がすでにWechat paymentを使用しています。

WeChat paymentの手数料はわずか0.1%で、QRコードを読み込むだけで客のスマホで簡単に決済が完了するので設備投資の必要がありません。お客のスマホがタッチパネル付きの注文モジュールになり、注文時に決済できるので非常に便利です。クレジットカードの銀聯カードは手数料が高いので、中国の都市部の小売店では銀聯カードを禁止し、Wechat paymentのみの決済としているところもあるようです。

中国政府は 製造業からIT産業へのシフトにものすごく力を入れており、都市部におけるIT技術の発展は米国や日本を凌駕している面もあります。中国情勢に詳しいアナリストによれば、中国でWechat paymentもしくはAlipay(アリババの電子マネー決済)をスマホに入れていない外国人はお店で客扱いされないとのことです。まさしく破壊的イノベーションの一例だと思います。

また、GoogleやAppleも同様のサービスを開始しています。Android payの決済手数料は無料、Apple payの手数料は0.15%です。Amazonはこないだ、とある銀行を買収して怪しい動きをしていますね。何か自前の決済サービスを目論んでいるのではないでしょうか。

ビザやマスターカードの現行のビジネスは、小売店から3%程度の多大な手数料を徴収し、その一部を利用者にキャッシュバックすることでクレジットカードでの決済を促すというものですが、今や人々はスマホという同一のプラットフォームを持っているのですから、小売店がこのクレジットカード会社からの簒奪に対して、反逆の狼煙をあげるのはごく簡単なことです。

外国製のアプリの規制により皆がWechatをスマホに入れている中国は一歩先を行っているだけで、いずれ世界はフラットになるでしょう。ビザやマスターカードは、現状ではほとんど投下資本なしでこの世の春(手数料ビジネス)を謳歌していますが、いずれテクノロジー企業の波に飲まれる日が来ると思います。

追記:もちろん、クレジットカード(信用払い=後日引き落とし)の手数料3%とWechat payment(デビット支払=即時引き落とし)の手数料0.1%との差の大部分は、引き落とし日までの金利と、利用者の与信コストです。しかし、スーパーや飲食店での支払いが、本当に当座のお金がなくて信用払いでないと払えないものでしょうか?単にキャッシュレスで払えてポイントがつくという理由で、クレジットカードを出しているだけではないでしょうか?もしそうであるならば、店がクレジットカードでの支払いを断っても、キャッシュレスで口座から引き落として簡単に払えれば実際的には困らないわけです。近い未来、クレジットカードを使えるのは高級店や、衝動買いが起きやすい業界の店(例えばアパレル)だけになるでしょう。クレジット(信用払い)社会とキャッシュレス社会を分けて考える必要があります。

決算概観:ヴァリアント・ファーマシューティカルズ(VRX)

ヴァリアント・ファーマシューティカルズ(ティッカーシンボル:VRX)が16/4Q決算を発表しました。悪い決算でした。

16/4Qの売上24ドル、Non-GAAP EPS 1.26ドルは市場コンセンサスを上回りましたが、15/4Qの売上28億ドル、Non-GAAP EPS 1.55ドルに対して売上は13%減、EPSは19%減です。

セグメントでは、コンタクトや眼科用医療機器などを扱うボシュロムがヴァリアントの売上の約半分を占めており、売上は15/4Q比ほぼ横ばいと比較的好調でした。
一方で、薬価下落等の影響で、胃腸薬のSalixなどがあまりよくありません。

17年度のガイダンスはEBITDA 35.5億ドル〜37億ドルが提示され、市場コンセンサス38.8億ドルを下回っています。


2/28の株価は前日比14%下落しており、2015年8月の高値263ドルからは95%下落しています。
時価総額49億ドルはEBITDAのわずか1.3倍ですが、298億ドルの有利子負債を抱えており、EBITDAに対する有利子負債レバレッジは7倍近くに悪化していますので、割安な水準ではありません。
米国みずほ証券のアナリストIrena Kofflerは目標株価を9ドルとしています。

Market Hackの広瀬さんもVRXの決算について記事を書かれていますのでご参照ください。
http://markethack.net/archives/52037466.html

お詫び:サーバー代を払うのを忘れてて30分ぐらいサイトが見れなくなってました。すみません。広告でサーバー代を賄いたいです。

17年2月末のポートフォリオ

ちょっと間が空いてしまいました。ラ・ラ・ランドを観たり、村上春樹の新作長編を読んだり、小沢健二の新譜を聴いたりしてました。

よくできたハリウッドの映画を観ると、アメリカって凄い国だな〜と思ってしまいますね。良い芸術作品には、「今死んでもいいかも」と一瞬思えるような(もちろん死んだらダメなんですが)エクスタシーがあると信じていますが、「ラ・ラ・ランド」にはそれがありました。エピローグでめちゃめちゃ泣きました。

前にアメリカ出張に行かせてもらった時も、行きの飛行機で「ズートピア」を観たせいで、教育的に正しくてエンターテイメントとして素晴らしい作品を比類ないクオリティで作るアメリカの偉大さに、入国審査前から恐れおののいてしまいました。「レヴェナント」にしとけば良かった。

それはともかく、2月末のポートフォリオです。

買い:HBI、 DAL

売り:AMZN(アマゾン)、鳥貴族

HBIはアマゾンを売ったその足で買いました。アマゾンはバリュエーションを再評価してみるとEBITDAではそれほど割高でないことが分かり、もう少しの上昇余地が望めるので再購入することを検討しているのですが、急落局面のHBIが拾えたのでアマゾンを売ったこと自体は後悔していません。

DALは一言で言うとBPのヘッジです。(またどこかで財務分析を詳しく書きます)

鳥貴族はライバルのパクリ戦略などの競争激化により、あれほど素晴らしかった既存店売上成長率が伸び悩んでおり、客単価が前年比減となっているため、今後インフレ率が上がってくると価格を固定したビジネスは厳しいだろうと判断。また新店出店ペースも遅いです。

 

明日は待ちに待ったVRX(ヴァリアント・ファーマシューティカルス)の決算発表ですね。営業キャッシュフローが予想を下回ると倒産の危機が見えてくるのでドキドキします。

決算概観:シスコシステムズ(CSCO)

通信機器メーカーのシスコシステムズ(ティッカーシンボル:CSCO)が先週、17/2Qの決算発表を行いました。シスコは7月が期末の変則的な会計日程なので、17/2Qとは16年11月から17年1月の期間です。

決算はまずまずの内容でした。

17/2Qの売上は116億ドルと、16/2Qの119億ドルから3%低下しました。
GAAPベースでは、17/2QのEPSは$0.47と、16/2Qの$0.62から下落しました。
前期には法人税の還付などが入っており、これらの影響を除いたNon-GAAPベースでは、17/2QのEPSは$0.57と、16/2Qの$0.57から横ばいです。

17/2Qの市場コンセンサスは売上116億ドル、Non-GAAPのEPSは$0.56だったので、売上は予想通り、EPSは予想を上回りました。

 

売上の内訳を見ると、主力のネットワークスイッチが前年比5%減、ルータが10%減。また将来性がある分野のデータセンタ向けも、意外にも4%減です。

一方でサービス(内訳不明)が5%増となり、ネットワーク機器以外の成長戦略を模索しているように思われます。

サービスのグロスマージンは67.7%で、プロダクトのグロスマージン61.1%よりも良いです。したがってプロダクトとサービスを組み合わせたソリューションの拡大により、収益性の向上が期待できます。

17/2Qの配当は$0.29と、前四半期の$0.26から11%の増配となりました。(シスコは年一回の増配ペースです。15/2Qは$0.21でしたので、年間10%以上の増配を続けています)

17/3Qのガイダンスは売上がYoYでマイナス2%から横ばい、Non-GAAP EPSは$0.57-$0.59です。

株価は決算発表日2/15の32ドル台から3%程度上昇しており、ITバブル以来の高値圏で推移しています。

はてなブログから独自ドメインに移行しました

当ブログ「Market Insights」は、これまではてなブログを利用してきましたが、1万PVを機に、より快適なサイトデザインを目指して独自ドメインを取得しました。

WordPress初心者のため、まだ見づらいところがあると思いますがご容赦ください。特にスマホからの可視性は今後改善します。

皆様に新たな視点と刺激を提供するようなクオリティの高い記事を書けるように頑張りたいと思いますので、当ブログ「Market Insights」のご愛顧をお願いします。

Appleの保有する余剰資金2000億ドルとレパトリ減税

トランプ政権の税制改正の目玉として、レパトリ(資金還流)減税法案があります。

レパトリ減税法案とは、米国企業が海外で保有している現金を米国に持ち帰る時にかかる税金を、1度限り通常の35%から10%〜15%程度に減税するという法案です。

 

この法案で最も影響を受ける企業の一つであるのがAppleティッカーシンボル:AAPL)です。Appleは2000億ドル(20兆円)もの莫大な現金及びすぐに換金可能な有価証券(Marketable Securities)を保有しており、その大半が海外で保有されています。

20兆円あれば世界中のほとんどの企業を買収できますが、下手な買収をしても資本効率を下げるだけです。Appleはこんなに大量の現金を持っていても仕方ないが、持ち帰ろうにも多額の税金を取られるので、仕方なく有価証券で運用しているのです。減税により米国に持ち帰られば、多くが株主還元に回るとの予測により話題となっているのです。

 

【警告】アップルの米国外資金は多分戻ってこないぞ! | Grow Rich Slowly シーゲル流米国株投資で億万長者になる!

ところで、上記リンクにて会計士の方がAppleが持つ1700億ドルのMarketable Securitiesはベンチャー企業投資有価証券であると述べておられますが、これは完全に間違いです。

 

Marketable Securitiesとはその名の通り、市場で取引される証券のことで、ソブリン債社債、上場の普通株式優先株等を指す幅広い言葉です。市場で取引されるため換金性が高く、現預金に性質が近いものとして扱われます。非上場のベンチャー企業の株式はそもそも、Marketable Securitiesではありません。

https://g.foolcdn.com/editorial/images/211463/marketable-securities-on-apples-balance-sheet_pUjo1AY_large.png

 

What Are Marketable Securities? — The Motley Fool

 

Motley FoolによるMarketable Securitiesの内訳です。社債が1160億ドルと大部分を占め、米国債が次点です。これらの債券は市場で活発に売買されているため、満期を迎える前に換金することができます。したがって満期までの期間により形式的に固定資産に分類されていますが、実質的には現預金同等物とみなしてよいものです。

 

また補足しておくと、米国会計基準(US-GAAP )においては、有価証券は決算において公正価値で測定し、簿価と公正価値の差額は損益に計上する(FVTPL)ように定められています。

日本会計基準(J-GAAP)では関連会社株式は基本的に時価評価しません。IFRSではその他包括利益を通して公正価値の変動を認識する(FVOCI)も認められていますが、時価主義の強いUS-GAAPではPLで認識する必要があります。

 

したがって、もし本当にAppleが1700億ドルのベンチャー企業の株を持っていたとしたら、(この金額はソフトバンクサウジアラビアと組んで1000億ドル規模のファンドを立ち上げる時に、世界のベンチャーキャピタルを全て合計した規模は数百億ドルと言っていたように、とてつもない規模なのですが)決算ごとに変動する公正価値がAppleの損益の大部分となるため、決算発表会はiPhoneの売上よりも(ソフトバンクのように)保有する会社の公正価値の話で持ちきりになるでしょう。シンプルを愛するジョブズが嫌うのは間違いありませんね。

 

さて、Appleが運用するMarketable Securities(社債米国債)の利回りは、平均するとAppleが発行する社債利回りと同じくらい(ざっくり3%台)でしょうか。

Appleの株主資本コストはざっくり計算して、リスクフリーレート2%にダウの平均成長率8%を足して10%くらいだと思います。D/E ratioが大体35:65なのでWACC(加重平均資本コスト)は7%ちょいでしょうか。

Marketable Securitiesの利回りがWACCより低いので、2000億ドルの資金を海外に積んでいる行為は株主価値を毀損していることになります。これがレパトリ減税税制改正によって改善される可能性があるので、株価が上がっているわけですね。

 

ただし、レパトリ減税はドル高を招きます。なぜなら、ドル以外の通貨で海外で保有しているのを、ドルに両替して米国に持ち帰るわけですから、実需でドルが高くなります。

ドル高はAppleにとって二つの意味で減益要因です。すなわち、海外での売上高がドルベースで目減りするという意味と、研究開発コストの大部分が本社のあるカリフォルニアで発生し、そのコストはドルで払われるため、コスト高に繋がるという意味です。

 

したがって、レパトリ減税Appleにとって、プラスの面とマイナスの面があります。

Appleはドル高に懸念を示しており、国境税調整に反対しています。

The End of Accounting:投資家にとって有用な指標とは

会計についての話をします。

 

MBAの名門であるニューヨーク大学スターンスクールの教授が、 The End of Accountingという本を書きました。この「会計の終わり」という刺激的な題名の本で著者は、従来の開示が投資家の判断に対してもたらす有用性が薄くなっていると主張しています。

英語の割と分厚い本ですが暇だったので読みました(飛ばし読みですが)

The End of Accounting and the Path Forward for Investors and Managers (Wiley Finance)

The End of Accounting and the Path Forward for Investors and Managers (Wiley Finance)

 

著者が挙げている例として、 ネットフリックスの売上が前期比15%増、購読者の伸び率は前期比15%減になったとします。株価は決算発表翌日に大幅下落しました。

売上高や利益といった指標を報告する従来の制度化された開示では、株価が決算発表を受けて上がるのか下がるのか投資家が判断することが困難になっています。

著者は、売上計上基準だけで700ページもの記述がある現状の米国会計基準は木偶の坊で意味が薄いため、財務会計基準審議会はこれの検討に作業量を割くのではなく、投資判断に有効なように会計基準を根本的に改革すべきだと主張します。具体的には、

 

・無形固定資産は今や企業の資産の中で最も重要である。無形固定資産を戦略的リソースとしてもっと詳細に開示すべき。例えばヘルスケア企業のパイプラインや、エネルギー企業の確認埋蔵量や、エンターテイメント企業や投資会社の有能なマネージャーなどなど。

・R&Dとひとかたまりにしているが、長期的な成果があるReserchと短期的な改善であるDevelopmentは全くの別物なので、どのような目的の投資なのか、より詳細に開示すべき。

キャッシュフローはフリーではなく資本コストがかかるので、資本コスト控除後の残余キャッシュフローも開示すべき。

等々といった改善案を挙げています。

 

私は筆者の考えに概ね同意します。

米国の一流企業の開示を見ていると、どこも筆者が挙げているような戦略的リソースについて投資家説明資料で公表していますが、一般的に決められた基準ではないため比較困難です。Non-GAAPGAAPの利益が全く異なる会社もあり(Twitterとか)実態を投資家が容易にわかるようにはなっていません。

 

また、この問題は米国に限ったことではありません。日本では無形固定資産に対する扱いが米国よりも粗雑だと思います。J-GAAPには無形固定資産の定義や認識要件についての包括的基準がありません。

 

資本コストを開示資料に含めることには議論の余地があります。資本コストをどのように算定するかには多くの恣意性があります。計算の前提となる負債や純資産は簿価ベースでしょうか、時価ベースでしょうか?どのように計算しても恣意性が入るのだから、開示資料には入れずに投資家が自分で計算すれば良いのでは、とも思います。

 

「会計の終わり」という挑戦的な題名ですが、内容は企業経営者や投資家に従来の開示の意義を問う、建設的な本でした。

 

おまけで、本の内容と少し関連しますが、僕が無意味だと思うファンダメンタル指標について。

PBR:資産の簿価は企業価値の実態を表してません。従って、PBRが何倍だから割高とかいうことには意味がありません。資産の簿価と時価がほぼ一致するのは現預金と売掛金、投資有価証券くらいのもので、それらは企業価値にとって一般的に重要な資産ではありません。

 

PSR:売上高は本質的に企業価値を表してません。殆ど同一のビジネスを行なっているならPSRを比較することに多少の意味がありますが、S&P500の平均PSRが過去最高だから米国株は割高だ、といった主張は完全に馬鹿げています。

 

あと、EBITDAは無意味ではありませんが使い方が難しい指標です。

EBITDAについてはちょっと詳細に書きたいことがあるので、次回にしたいと思います。

決算速報:Twitter(TWTR)

 Twitter Inc(ティッカーシンボル:TWTR)が16年度決算発表を行いました。

 

売上はYoYで13%増。4QのQoQではわずか1%増で、データ販売のライセンス契約による収入が増えているかわりに広告収入は横ばいで、厳しい状況です。月間アクティブユーザはYoYで+4%と停滞期に入っています。

4Qで1億ドルのリストラクチャリング・コストを計上しています。

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GAAP純利益は4.5億ドルの赤字で、Non-GAAP純利益は4.0億ドルの黒字です。

 

このGAAPとNon-GAAPの差は主にストックオプション費用です。

米国会計基準ではASC718にて付与日時点の公正価値でストックオプションを費用化するという決まりがあります。

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フリーキャッシュフローは16年度に4億ドル創出しましたが、ストックオプションを乱発しているせいで潜在株式が増加しており、将来の株主還元は期待できません。成長も停滞しておりかなり厳しいです。

 

普段Twitterを利用していますが、広告主から出される広告の質が低く、ターゲッティングの精度も GoogleFacebookと比較して圧倒的に悪いです。

GoogleFacebookは自社サイトにおいて最適化した動画広告を表示することでARPUを大幅に伸ばしていますが、Twitterにそのような改善を期待するのは間違っています。

 

17年度ガイダンスは、16年度と同じくストックオプション費用を除いた調整後営業利益では黒字ですが、純利益は赤字予想です。

 

株価は酷い決算により寄り付きから約4%下げています。

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